仙台高等裁判所 昭和55年(ラ)98号 決定 1981年1月14日
抗告人(第三債務者)
大石田町
右代表者町長
高桑喜之助
右代理人
高橋敬義
相手方(債権者)
株式会社山形相互銀行
右代表者
澤井修一
債務者
株式会社清水工務店
右代表者
清水東一
主文
本件執行抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一本件執行抗告の趣旨と理由は別紙に記載のとおりである。右理由は要するに、
(一) 本件の被差押債権が存在しない、(二) 被差押債権の券面額が確定していない、(三) 被差押債権は申立外山口物産こと山口俊蔵の申立により仮差押えがなされた、というにある。
二よつて、検討するに、(一) 執行裁判所は債権差押え及び転付命令を発する場合、被差押債権の存否については、債権者の主張をそのまま真実と仮定すべきであつて、債務者及び第三債務者を審尋しないでこれをするものであり(民事執行法第一四五条第三項)、被差押債権の存否を調査しないのである。被差押債権の存否は、その債権の支払を求める段階において確定さるべき問題であつて、その不存在は債権差押え及び転付命令を違法とすべき事由にはあたらない。(二) 次に、本件の被差押債権は、請負契約に基づく報酬債権であつて、請負契約の成立と同時に債権額(報酬額)が確定し、支払期が仕事の完成後とされているにすぎないから、券面額は確定しているということができ、抗告人のこの点に関する主張も理由がない。(三) 次に抗告人は、仮差押えと差押えとの競合による不都合を主張するけれども、記録によれば、申立外山口物産の仮差押えは、本件転付命令が第三債務者である抗告人に送還された昭和五五年一一月一四日の後である同月一五日に山形地方裁判所より発せられたことが明らかであるから、本件転付命令は有効であり(民事執行法第一五九条第三項参照)、転付命令が確定したときは、同命令が抗告人に送達された時に遡つて相手方(債権者)の債権が弁済されたものとみなされる(同法第一六〇条)から、抗告人指摘の点は、何ら本件差押え及び転付命令を取り消すべき事由にあたらない。
三しからば、本件執行抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条を適用して主文のとおり決定する。
(小木曽競 井野場秀臣 田口祐三)
<参考・執行抗告の申立書>
一 抗告の趣旨
原決定を取消す。
本件申立を棄却する。
手続費用は相手方の負担とする。
二 抗告の理由
1 相手方は相手方、申立外株式会社清水工務店(以下申立外会社という)間の山形地方法務局所属公証人阿部市郎右作成昭和五五年第三四四三号債務弁済契約公正証書、同公証人作成昭和五五年第三四四四号債務弁済契約公正証書の執行力ある正本にもとづき抗告人申立外会社間の昭和五五年八月二五日付地区再編農業構造改善事業大石田町新山寺地区集落センター新築工事の工事代金二、五五〇万円の残金一、七九〇万円について債権差押及び転付命令の申請を山形地方裁判所に提出し、抗告人は同裁判所より昭和五五年一一月一四日右命令の正本の送達を受けた。
2 抗告人が昭和五五年八月二五日申立外会社と請負代金額金二、五五〇万円で前項記載の建設工事請負契約を締結したことは認めるが抗告人は昭和五五年九月二六日工事請負代金の内金七六〇万円を前払金として申立外会社に支払つたので昭和五五年九月二六日以降申立外会社の抗告人に対する請負工事代金請求債権の額は金一、七九〇万円となつた。
3 前項記載の請負工事残代金一、七九〇万円は、大石田町建設工事請負契約々款第二八条により申立外会社本件工事を完成させ完成通知書をもつて抗告人に工事完成を通知し、抗告人が検査を行つて工事完成を確認し、検査に合格したとき申立外会社は、はじめて請負工事残代金一、七九〇万円を抗告人に請求し得ることになつている。然るに申立外会社は本件工事の中途に於て倒産し本件工事の施工能力を喪失したので抗告人は昭和五五年一一月一〇日申立外大場工務店代表大場一男に本件工事の遂行を命じ同人の承諾を得て本件工事を遂行中であるので申立外会社による工事完成はあり得ず申立外会社の抗告人に対する金一、七九〇万円の請負工事残代金請求権は存在せず本件差押命令は取消されるべきである。
4 抗告人は申立外会社の本件工事遂行放棄に伴い申立外大場工務店代表大場一男に対し本件工事の施工を命じ目下施工中であるが、同人が本件工事を完成した後は、検査の後検査合格の上は同人の請求にもとづいて同人が施工した工事の代金は当然同人に支払わなければならないが本件により申立外会社が抗告人に対していない金一、七九〇万円の本件請負工事残代金の全部について相手方から差押えられ抗告人は申立外大場一男に対し強く本件工事の施工を要求出来ず極めて難渋しているので是非本件差押命令を取消されたく希望するものである。
5 転付命令をなし得るために被転付債権額は確定していなければならない。然るに申立外会社が本件工事の施工を途中に於て放棄しておらず工事の完成が期待出来る場合には請負工事締結の時に申立外会社は抗告人に対し本件請負工事代金二、五五〇万円也の確定債権を有し、本件工事の完成及検査の合格は単に前記確定債権の履行の時期を決定する要素となり得るに過ぎないが、申立外会社が工事途中に於て施工を放棄した以上申立外会社は抗告人に対し本件金一、七九〇万円の確定債権を有しないことは明らかであつて本件転付命令は無効で取消されるべきものである。
6 抗告人は本件請負工事代金一、七九〇万円のうち金一、七一〇万円の申立外会社の抗告人に対する債権について債権者申立外山口物産こと山口俊蔵、債務者申立外会社第三債務者抗告人間の山形地方裁判所昭和五五年(ヨ)第二三五号債権仮差押命令申請事件について昭和五五年一一月一八日仮差押決定正本の送達をうけ抗告人は本件請負工事残代金一、七九〇万円を相手方のみに支払うことが不可能となつたので本件転付命令は取消されるべきである。